もちづ記

1年おきぐらいで更新したい

修士になりました

はじめに

世間は大変なことになっておりますが, 先日大学院の博士前期課程を修了し, 修士 (工学) の学位を取得しました.
丁度 就活エントリ を書いてから1年経ったので, 学部及び大学院生活を振り返ってみたいと思います.
各トピックについて覚書を羅列しているだけの記事なので, 暇だったらちょくちょく修正するかも知れません.

想定する読者

以下のような人に読んで欲しいなと思って書いています.

  • 高専から大学編入, 大学院進学を考えている人
  • 大学でHCI, UIに関する研究をしたいと考えている人
  • 陰キャ

大学編入

私は某高等専門学校より2016年度に某国公立大学編入しました. 編入試験に関する詳細は別の記事に書いてたんですけど, はてなグループが潰れたので今見れません.......
*1

わりと興味あった某波某学の情報メディア創成学類に落ちたので, もうちょっと偏差値の低い某国立大の某学科に編入しました. 通信工学と情報工学をバランスよく学ぶことを目的として設立された (実際バランスがいいかというと...) 学科です.

授業

自分は高専時代とあまりカリキュラムが違わない学科に編入したので, 単位認定時に不利にはなりませんでしたが, それでもB4で研究に打ち込むためにはB3で50単位程度履修する必要がありました, 特に前期は試験が一週間に11科目ほどあったので, 編入試験前よりもちゃんと勉強していた気がします.
しかし, 工学系の学部では専門科目の試験は一般教養と異なり, そこまで難しくはないため, 授業のレジュメを理解していればある程度の成績は取れると思います.
この点が, 後述の研究室配属も含めて編入生の利点だとも言えます.

単位認定に関しては, 入念にチェックしても漏れがありB4で教養科目を取る羽目になったので, 不安な人は編入経験者の先輩や同期, 教務委員の教授に相談した方が良い気もします.

サークル

サークルには入った方がいいです. むしろサークルに入らないとマジで編入生以外の知り合いできないと思います.
自分はゲーム製作サークルという, 高専卒のメリットが活かせるところに入りました *2が, ゴリゴリの運動部でなければ任意のサークルが受け入れてくれると思います. 実際に同期の編入生の中では運動系のサークルに入ってた人もいます.
新歓時期にB2の人との会話が気まずくなるのに耐えられれば, 知り合いもいっぱいできるし友達も多分できます. 恋愛は..........

アルバイト/インターン

学部は履修数の都合からあまりやってなかったですが, B4から高専の人 *3の紹介で, 某スタートアップ企業でB2B向けのGUIアプリケーションの開発をしていました. 上京した当初はカフェバイトしようとしてました
開発言語や内容がスキルセットとも合致していたことや, シフトを柔軟に入れられたこともあり, 研究において負担にはならなかったです.
むしろ, 研究で煮詰まった時の気分転換にもなるので, エンジニアやりたい人は開発系のバイトやインターンへの挑戦をオススメします.
研究職とかD進への志向が強い場合には, 教授にそれ系のインターンを斡旋してもらうとか, 学会とかでオファー受けるなどできる限りの努力をした方が良いかも知れません.
短期インターンではB3の夏にピクシブに行きました, ずっと使ってきたサービスだったので学部で一番思い出深いかも知れませんね.

研究室配属

編入生は修士に進学する場合, 在学期間の大半を研究が占めるわけで, その選択は慎重になった方が良いと思います.
自分は, 研究室の顔ぶれである程度編入試験を受験する大学を絞り込んでいました. そして, 編入後は候補の研究室を主宰している教授の授業をとったりして, 実際の研究内容や教授の人格とかを判断してました. 編入だと各研究室の評判を知りづらい場合もあるので, サークルで情報集めるなりアポ取ってみにいくなりしましょう.
学部時代は余裕がなくてできませんでしたが, ゴリゴリ研究したい人は研究室ごとの過去の発表文献を見たり, 科研費とかを調べるといいと思います. 学生一人が国際会議に行ける回数は予算で決まるので, 旅行行きたい人は予算が潤沢なところがいいと思います. (金あるところは忙しいけど)

弊学ではGPAが研究室へ配属基準でした. 前述の履修もあり, 編入生はGPAがわりと高くなる*4ので第一志望の研究室に行けました.
研究室/テーマは学部と大学院で共通なので後述します.

高専と大学の違い

世間では "高専生は優秀である"という言説をよく見かけますが, これに関しては"優秀な高専生は優秀である"としか言えないなと感じました.
自分は高専時代は技術的に秀でた部分は無かったので, 現時点での実務的スキルの大半は学部時代のインターン, アルバイト, そして研究で身につけた面が強いです.
また, ちゃんとセンター試験を受けて大学に進学した内部生の方々は, 特定の目的に対する粘り強さや, 基礎勉強に対するモチベーションがとても高い印象を受けました. この能力は, 特に機械学習などを学ぶにあたり必須だと思います. 自分は数学ができないのに理系に進んじゃっちゃことを後悔してます...
それに対して自分を含めた高専生はテストを乗り切れば進級できるし, 選ばなければ進学/就職も容易であるため, 小手先での解決手段を取ってしまう傾向がある印象を受けました (うちの出身高専ぐらいかも知れない).
今振り返ってみると, そんな欠点を補うために, 自分はHCIのような応用研究を志願した面もある気がします.

大学院

進学にあたって

大学編入時から, "せっかく大学に編入したのだから, 研究を頑張ってみよう"とは思っていたので, 進学の意思は変わりませんでした.
受験は学部と同じ大学の, より情報よりの研究を行う学科を内部推薦で受験しました. 近年は情報系を志望する学生も多いので, 外部受験だと普通に落ちます. 試験問題を雑に解いてみた感じ, 自分も外部受験だったら落ちていたと思います.
特にTOEICで差がつく*5イメージが強いので, 前々から対策しましょう.

授業

内容がより情報科学中心になったことや, 卒業に必要な単位数も学部よりは少ないため, 負担はあまり無かった印象です. 必修の縛りで内容が画一化しやすい学部の授業と比べて, 教授の専門に内容が大きく依存するため, 当たりはずれは大きいですが, 研究が忙しくなければ熱心に取り組むと学べることは多いと思います.
また, 学部と違い履修に余裕があるので, 他学科の授業も興味があれば受けてみたら面白かったです.
リーダブルコードの原著をひたすら読む授業とかありました. 研究の息抜きにもオススメします.

また, 学部と違って大学院では研究室にいる時間がメインになり, 合間に教室へ授業受けに行く感じになります.
研究室に来れば家ほどは遊ばないので, 真面目系クズの人は来た方がいいと思います. 夏は涼しいし冬はあったかいです.
ですが, 放置系の研究室だったので室内はスパースでした. そうするとあまり自宅と変わらなくなっちゃいましたね...
ちゃんと研究したい場合はコアタイムがあったり, 常駐メンバーが多い研究室行った方が良さげな気がします.

研究テーマ

研究室は学部と同じく, 情報可視化や情報推薦などの, 情報科学の諸技術を人間側から支援する方法論について研究しているところです.
研究テーマはデータの探索的分析を支援するための情報可視化について, 可視化インタフェースの実装やユーザ実験による有効性検証を行っていました.
情報可視化は国内だと研究分野としてのプレゼンスは低いですが, 海外では専門のトップカンファレンスが3つあるほどにメジャーなテーマです*6.
高専の頃は創造性支援に関する研究をしていましたが, データマイニングにも興味があったので, 丁度いいテーマ選択だったと思います.
研究室によって所与のテーマから選択するところと, 自分で考えるところで差がありますが, 弊研究室は両者の中間ぐらいで, 与えられたテーマを学生の裁量で発展させる感じでした.
最終的な研究のメインではありませんが, 創造性支援のアプローチを可視化に採用したりもでき, 開発面はいろいろ試せて面白かったです.

学会発表

研究成果としては以下のような感じです. インターンやアルバイトを頑張ってない大学院生の中では平均ぐらいだと思います.

  • 論文誌: 1件
  • 国際会議 (査読あり): 3件
  • 国内会議 (予稿あり): 3件
  • 国内会議 (ポスター/共著など): 6件

終わりの見えない研究を進めるにあたっては, いかに節目ごとのモチベーションを確保するかが重要な気がします. 友達や彼女が多ければ旅行とかデートでもいいと思います. 自分みたいな陰キャは学会とかでの旅行でそれを満足し, 何とか乗り越えられました.

発表する学会を決めるとそれを前提に研究のスケジュールを半年-1年単位で組めます. 採択されれば就活の面でもうまく働く気がします. 特に, HCIの研究は人に見せないとシステムの強み/弱みはわからないと思うので, 教授が許してくれる限り発表をしましょう. その際に, JSAIやISPJの全国大会のような広く浅くな研究領域を扱う学会よりも, WISSやインタラクションのような専門分野の方と議論ができる環境に出すのが良いと思います. 国際会議でも, 査読コメントは研究分野に特化した学会ほど有益なものだったので, (あれば) 出来る限りスコープの狭いトップ会議に出しましょう. 研究室にとってはWorkshopでも投稿許してくれる場合もあるので, そういうのもアリかもしれないです.

また, 国際会議では南米などかなり珍しい場所に旅行できたので, その後の人生において非常に有益だったと思います. 旅行については内容が豊富で別途エントリを書くかも知れないでので省略します.
卒業間際に行くはずだった学会は残念ながらCOVID-19の影響で中止になってしまったので, その開催地へは就職後に休みが取れたら行ってみたいなと思います.

一番能力が付いたと感じたのは英文ジャーナルの執筆です. ジャーナルは査読を経て掲載されますが, 一部のトップカンファを除く国際会議とは異なり, 査読はレビュアーの指摘に合わせて原稿を"必ず"修正する必要があります. 修正結果は返信文としてレビュアーに送付する必要があり, 英語の表現も含めて入念に議論を行った記憶があります.
10ページ程度にそれまでの自身の成果を詰め込むために, 推敲を重ねた経験は修論執筆時にも役に立ったほか, 採択された事実は研究内容に対する自信にもなっていくと思います.
有効性が検証が難しいHCI分野の研究は査読システムにより一定の安全性が保たれていると思うので, 今後何かしらで恩返しできたらとは思っております.

就活

詳細は前述の就活エントリに書いてあります. 20卒でしたが, 想像していたほどハードではなかったです.
工学系の場合, 研究に関することが喋れれば, あとは相手先企業とのマッチングが重要だと思いました.
皆さんはインターネットを使えると思うので, 情報はあらゆる手段を使って集めましょう. 足を使えるともっと集まります.
就活中や入社後にストレスたまらないのが一番重要だと思うので, 自身が一番快適に過ごせる環境を探しましょう.
来年度以降は大変かも知れませんが, 持てる限りの情報を駆使すればなんとかなる気もします.

生活の変化

大学院では学部と比べて人と会わなくなります. 特に放置系の研究室だとそれはより顕著で, 学部時代の知り合いなども事前に予定を組まないと会う機会が減ってしまいます. 自分は学部時代よりも田舎 *7に引っ越したせいもあり都心に出る気も起きず, 休日もどこにも行かずに偏執的に論文をサーベイし続けていました. 就活やってた時はそれに加えて安い酒*8と安いつまみ*9を摂取していたため, 内定先の健康診断でコレステロール異常になっちゃいました.
精神を病むM/Dの人が多い理由も分かった気がします.
(聴衆の興味や質疑の内容に雲泥の差があります...)

また, これから大学院に進学する人は, 学部時代/高専時代のつながりを大事にした方がいいと思いました. 陰キャだとかなりさみしい感じになっちゃいます.

修論

前述の学会発表や論文誌のストックがあったので, 執筆自体はそこまで負担ではなかったです. 参考までにM2の修論に関するスケジュールは次のような感じでした.

  • 4月: M1までのサーベイ結果に基づき, 最終的なインタフェースの設計を行う, 学部とM1の成果を論文誌に投稿
  • 5月: インタフェース実装
  • 6月: インタフェースの実装を完了する, 実装内容を国内学会で発表
  • 7月: 実データを用いた研究室内におけるケーススタディ (定性的評価)
  • 8月: 研究室外に協力してもらうケーススタディ -> 失敗, 論文誌の査読結果に対応する
  • 9月: ケーススタディに基づくインタフェースの修正, ここまでの研究成果の国際会議への投稿
  • 10月: インタフェース実装の完了ユーザ実験による定量的評価
  • 11月: 実験結果の集計, 研究アプローチの再検討
  • 12月: 修論執筆, 国際会議の査読結果への対応
  • 1月: 修論執筆完了, 発表資料作成
  • 2月: 修論発表

学会発表をマイルストーンとすればわりと遅れなしにできる気がします. 実験やケーススタディは絶対予想通りに進まないので, 余裕を持ってスケジュール設計しましょう. 特に情報可視化に関する研究では, 有効性をパフォーマンスだけでなく"可視化から実際に知見が得られたか"について定正的に評価する必要があるため, 実験に協力いただく方にも負担を課してしまいます.

また, 特に情報可視化分野の研究では, インタフェースとしての新規性と, 支援対象となるユーザにとっての有効性が重視されます.
期間が限られる修士の研究では様々なアイデアを並行して実装する余裕はなく, また, 学生の主観のみで有効性を判断するのは危険です. そのため, M1までに網羅的にサーベイを行うと, 終了間際にインタフェースを大きく改変するリスクが防げるので有益と思います*10. サーベイを通じて研究に関するアイデアが得られるメリットもあります.
自分は3年間でアブストを300-500本読み, うち150本程度を精読しました. 2ページ程度のポスター予稿も含む数なので, 研究頑張りたい人はもっと読んだ方が良さげです. サーベイ結果はmendelayや.mdファイルとかにまとめとくと論文書くときに参照しやすくて便利です. 学部で理解できなかった論文が, M2ですごい重要だったと判明する場合もあるので, 少しでも読んだやつはメモ残しとくと良いです.

修論執筆に際して, 分量は研究室によって違うと思いますが, HCI系の研究ではユーザ実験をやるので, ページ数が膨大になる傾向があります.
図や表への参照も増えるため, 絶対TeXを使って書きましょう.

修士を取得して

今後, 学科の新設などに伴い情報系の修士は増えていくこともあり, 学位の所有自体に価値があるとは思いませんが, 何かしらに3年間集中して取り組んだことに関しては, 高専本科や学部のみでは得られなかった誇らしさを感じております.

今後として, 4月からはWeb系企業でエンジニアをやります. どちらかと言えば研究開発的なアプローチで働きたいと思いますが, HCI系の研究職が国内でポピュラーでないことや, 配属ガチャがありそうな都合から, 将来については運用でカバーしても遅くはないのかなと思います.
諸般の事情により, 博士進学は断念しました. しかし, 今後やりたい仕事はPh.Dの所有がメリットとなる内容なので, 就職後も20代のうちぐらいはアカデミアとはある程度の距離感を保ちたいと感じています. 例えば, 2021のCHI (横浜)には何らかの手段で参加したいなと考えてます.
また, Dへの進学経験がある方からもいろいろ伺いたいなとも思います. オファーください...

おわりに

雑多な内容になってしまいましたが, どなたかの参考になれば幸いです.
文中でぼかした固有名詞の内容や, 質問, 感想はtwitter (@motttey)にDMください. 卒業祝い/就職祝いをウィッシュリストよりお待ちしています.

*1:ジオシティ●ズとかもそうですが, なるべくインターネットから情報を消さないで欲しいんですけどね!

*2:Unityでゲーム作って学祭で発表する

*3:@cllightz

*4:3.5超えるぐらい

*5:近年では東大/東工大以外でも800は必要かも

*6:Eurovisという会議の参加報告

*7:都心から1時間程度

*8:ストゼロ, 99.99

*9:OKで買った天ぷら

*10:サーベイに関して伊藤先生のスライドがとても参考になります